トップアスリートのパフォーマンスも支える|ユーザーズボイス02

最新のスポーツギア開発を
支える「計測」の力

ミズノ株式会社

古川 大輔・島名 孝次 

トップアスリートの
パフォーマンスも支える

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当社がこのMAC 3Dシステムを納入させて頂いたのが2006年です。当然これらの納入以前から科学的知見を取り入れた製品開発は行っていらっしゃったと思いますが、モーションキャプチャー、3D-CGシステム導入以前、以後では得られるデータの精度はやはり大きく異なるのでしょうか。

島名

90年代には通常のビデオカメラを複数台使って人体にマーカーを貼って撮影し、それを三次元の座標軸に落とし込むということにトライしていました。解析が手作業でしたから非常に大変で、一方で膨大な作業量の割にはデータの精度は良くない(笑)。 その後モーションキャプチャーが映画やゲームといったエンタメ産業などで活用され始めて、90年代後半から2000年代にかけてでしょうか、バイオメカニクス分野での利用も徐々に始まってきました。私たちも比較的早くからモーションキャプチャーには注目していましたが、当初は外部の会社にお願いして計測、CG加工によるデータ作成を行うという形でした。かつてのビデオカメラを使ったマニュアル作業に比べれば圧倒的にデータの精度は高く、徐々に社内でも「これは使える」ということが認知されてきました。ただいかんせん外注した場合にはそのコストが高く、気軽に計測するというわけにはいきませんでしたね。

古川

一度のモーションキャプチャーに100万単位のコストが発生していましたから。データの精度としてはかつてのカメラでのマニュアル作業に比べれば圧倒的に高いけれど、この計測自体が開発コストを圧迫することにもなってしまう。そうした中で自社内にそうした設備を持つということは当然議論になってくるわけですが、一方でこの計測システムだって安いものではありません(笑)。その中で決め手となったのは、先にお話しした島名が関わった独自の3D-CGモデルを自社開発できたことです。これによって計測データを開発参考データとして有効利用できることが社内にも確実に認知されましたから。

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開発には相当な時間を要したのでしょうか。

島名

実際の開発は2年ほどですが、「こうしたシステムがあれば」という着想段階から考えると4〜5年は要していますね。 何より難しかったのは人体の動きを3Dの人体モデルに解剖学的に忠実に落とし込むこと。特に皮膚モデルのそれです。単純に関節を曲げるという動作ひとつでも皮膚の動きは非常に複雑で、均一に伸び縮みするわけではありません。それら複雑な動きを微妙にパラメーターの設定を変えながら再現する。本当に地道な作業の繰り返しでした。

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自社内にこうした計測設備を導入したメリットとしては、まずはお話にあったようにコスト面が挙げられますか。

島名

そうですね。従来、計測〜可視化するために発生していたコストが削減できますから。もちろん設備の初期投資はかかりますが、それ以上に現状は「使い倒している」(笑)と言って良いほど稼働していますから。

古川

データ解析の時間短縮も大きいですね。従来外注していたときはモーションキャプチャーでの計測から3D化までは数週間、場合によっては月単位でアウトプットを待たなくてはいけないこともありました。一方で自社内に設備があればすぐにその結果をみることができる。結果を見て「じゃあこういう条件だったらどうなるのだろう」という、試行錯誤がすぐできるという点では開発期間の短縮に大きく寄与していると思います。

3D-CG
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トップアスリート向けとなると用具の性能がコンマ何秒を削るという、非常にセンシティブな世界なのでしょうね。

古川

トップアスリートが最大のパフォーマンンスを発揮するための用具開発となると、まずはその選手がどういう動きをするか、動作によってどの筋肉が使われているかなど、精細なデータが必要になってきます。その点ではこのシステムで得られる情報は非常に重要です。またトップアスリートの感性は本当に繊細で、用具に対する微妙な違和感を彼ら独自の感覚で言葉にします。その感覚はトップアスリート独自のもので、一般にはなかなかすぐに理解がしにくいものなのですが、我々が計測した精密なデータを提示することで、それをひとつの共通理解とすることができる。アスリートと開発者の円滑なコミュニケーションにも貢献していると思いますね。
加えて副次的な効果になりますが、我々がデータを計測することで、アスリートのコンディショニング調整にも一役買っています。調子が今ひとつあがらないという選手がここを訪ねてきて、「昔の自分のフォームと今どう違うかが知りたい」ということがけっこう多いのですよ。これは商品開発には直接関係はしませんが、トップアスリートからの信頼を得る、「ミズノを使って良かった」と思ってもらえることは企業にとってひとつの大きな価値だと言えますからね。

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多くのトップアスリートがミズノ製品を使う。それは第一義的には広告やPR効果だと思いますが、一方で自動車メーカーがレースに取り組むように、技術の粋を究めて開発された物がコンシューマー製品に導入されていくわけですよね。

島名

〇〇モデルとして販売される商品もありますし、一方で一流選手の筋力や技術を使用の前提にしている物だからこそ、一般向けには適さないという場合もあります。ただそこで培われた技術がすべて一般向けに適さないわけではなくて、プロ選手とアマチュア選手の動作解析を行い、その差分を測ることでコンシューマー向けへの改良点が見えてくることがあります。一流選手に比べ筋力の劣る一般競技者向けには、用具やウエアによってどの部分をサポートしてあげればより良いパフォーマンスを発揮できるのかなどが、データ計測によって見えてくるわけです。実際、ゴルフのアンダーウエアには、プロとアマチュアの姿勢や動きの差分を測り、そのデータを基に開発された製品などもあります。