世界のトップ選手が認めるミクロレベルでの性能への挑戦|ユーザーズボイス06

バドミントンラケット開発に込められた
JAPANESE QUALITYの誇り

ヨネックス株式会社

大谷和也・大熊伸江 

世界のトップ選手が認める
ミクロレベルでの性能の挑戦

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開発者として“この商品には強い思い入れがある”というものがあれば、それぞれ教えていただけますか。

大熊

入社してすぐの時期に「VOLTRIC(ボルトリック)」という主に上級者向けの製品シリーズのシャフト部分の開発を担当したのですが、それが思い出深いですね。開発テーマとしては「シャフトを細くし空気抵抗を減らす。ただし上級者が望む硬さ、反発力は失わない」というもので、コンマ数ミリを削るために素材の組み合わせなどを何度も試しました。またすごく勉強になったのは製造部門とのやりとりです。当初、細くて強度を保つために私が考えていた方法は、工程的に手間のかかるものだったのです。技術的、性能的には要求をクリアできているのですが、商品として成立させるには製造工程も考えた設計が必要です。開発というのは性能だけじゃなくて、生産の効率化、製造現場も見据えたものでなくてはいけないということを教えられた、ヨネックスの開発者としてのベーシックなスタンスを学んだという意味でも思い出深い製品です。

大谷

私もVOLTRICはシリーズの開発当初から関わったので思い入れがある製品のひとつですね。VOLTRICシリーズのコンセプトは簡単に言うとパワー系ラケットです。パワーを高めるには先にお話したように重くすれば良いわけですが、そうすると操作性が悪くなってしまう。操作性を維持したまま、パワーを高めるためにはどういう重量配分で、どういう構造、設計にすれば良いのか、それを突き詰めた製品です。 フレームを触ってもらうと、ちょうど10時、2時方向と、ジョイント部分の断面積が大きくなっていて、サイド部分はシェイプされているのが分かると思います。この構造によって剛性を保ちながら、しなり性能、そして空気抵抗を低減した振り抜きの良さも高めています。一方で重量配分も、フレームの下部、ちょうどジョイント部分を重くすることでパワーと操作性を両立させています。

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世界のトッププレーヤーが求める性能要求は相当に厳しそうですね。

大谷

そうですね。ただヨネックスの場合、紹介したVOLTRIC Z-FORCE IIにしても基本は一般発売の製品です。ごくわずかな契約選手向けに、要望があった場合重量バランスの微調整を行いますが、その他−−といっても相当なレベルのトップ選手−−は、市販製品を使っているんですよ。

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オリンピックのマラソン選手などは、世界に一足しかないシューズ、その選手向けの製品を使うと聞いていますけれど、ヨネックスさんの場合はごくわずかな例を除くと、そうではないのですね。

大谷

ええ。このことも当社製品のレベルを示すものと言えるかもしれません。

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そのレベルの一端。開発の一助にハイスピードカメラはどのように活用されているでしょうか。

大谷

ハイスピードカメラの特徴は何より、目に見えない、捉えきれない部分を可視化できることですよね。可視化は大熊が示したように開発のさまざまな部分で必要です。また一方で性能をお客様に示す上で、数値化するための重要な役割を担っています。シャフトのしなり、フレームの復元力がどれくらい高くなっているのか。それをハイスピード動画で捉えて数値に落とし込んでいく。ユーザーはそうした客観的なデータがあって性能を判断できるわけで、エビデンスを示すという意味でも重要です。

大熊

現在、ハイスピードカメラは基礎研究から試作段階の検証まで、たとえばスマッシュ速度、スイング動作、インパクト時のフレームやシャフトの挙動など、さまざまな場面で使用しています。 先ほどシニア向け製品で、ハイスピードカメラでプレーヤーの動作解析をし、技術開発へと進んだ例をお話しました。私自身、もっとこうした人間の動きを知ることとラケット性能のマッチングを進めたいと思っています。もちろん開発には素材や設計からアプローチするなど、いろんなやり方がありますが、人が使う製品という点では、やはり人の動きを知ることは重要でしょうし、もしかしたらバドミントンラケットにおいて今までそういうアプローチはあまりなかったのかもしれなくて、見方を変えるとそこに製品開発のヒントが多く残っているのではないか、とも思っています。