事象を可視化することで開発陣共通の知を蓄積する|ユーザーズボイス09

トップメーカーとしての
社会への責任、『ものづくり』への誇り

マブチモーター 株式会社

井坂 洋輔 

事象を可視化することで
開発陣共通の知を蓄積する

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ナックのハイスピードカメラを導入いただいたのは2006年。井坂さんが関わる製品開発の場面で、私たちの製品はどのような役割を果たしているのでしょうか。

井坂

製品開発には長年の経験やそれに伴う勘というのが重要になってきます。ただそうしたものはどうしても属人的なものになりがちです。経験あるエンジニアなら勘が働いて気づくのに対し、経験が浅ければその問題に気づくまでに時間がかかるというように。ハイスピードカメラでの映像解析などは問題を可視化し、その解決方法を理論化する。そして開発陣の共通の知にすることができます。

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先ほど普段は入れない設計の現場にお邪魔させていただきましたが、あれはモーターのノイズ計測ですね。

井坂

ノイズの発生を抑えるのは小型・軽量化とならび、要求性能のなかでも非常に大きな部分です。ドライバーがパワーシートを操作するたびに大きな音が発生するとしたらそれは雑音でしかなく、自動車自体の価値を落とすことになってしまいます。ノイズの軽減には騒音レベルや周波数を計測すれば、その発生度合いは簡単に分かります。ただ一方で事象に関わっているのがモーターのどの動きであるのか、どこを改良すれば改善できるのかはすぐには判別しにくいという問題があります。経験あるエンジニアであれば問題箇所をいくつか仮定し、手を加えることで解決ができるかもしれませんが、誰しもがその能力を持っているわけではありません。そこで機器に実装されたモーターの動きをハイスピードカメラで可視化し、それをノイズのデータと組み合わせることで、要因を突き止め改善を図ろうというものです。

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熟練の勘や経験を補うものということですね。

井坂

実際にはハイスピードで見なくても「多分ここだな」と問題点が想像できる場合もあります。それについてもきちんと見ること、データと付き合わせることで確証を得られる。問題の解決・改善において無駄がなくなりますし、こうしたことを体系的に積み重ねていくことは、個人の勘や経験ではなく開発陣全体のノウハウになります。また開発だけでなくお客様とやりとりをする上でも、こうした映像とデータというのはエビデンスを示す意味において大切な役割を担っています。

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ナックの製品だけでなく、井坂さんは入社当初から性能テストを担当されていたこともあって、計測機器に関しては御社の中でもかなりのエキスパートだとお聞きしています。

井坂

計測機器を扱うのは好きですね。ハイスピードカメラをはじめとした機器も、おそらく社内でもっとも活用しているのは私かもしれません。その結果、他の開発陣から「ここが見たい」、「この動きを動画で撮れるかな」といった相談はよく受けます。その意味ではナックさんの製品の社内PRには相当貢献していると思います(笑)。

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ありがとうございます。引き続きどうぞよろしくお願いします(笑)。さて、先ほどお話があったように、客観的な測定データというのはお客様に向けてのエビデンスという面でも重要ですよね。

井坂

ええ、それは間違いありません。実は少し前、あるお客様に回転数の異なったいくつかのモーターのサンプルを出した際、「どれも回転数が同じなんですが」という連絡が飛び込んできました。「そんなわけありません」などと押し問答をしても話は進まないので、地方のお客様でしたが私は取るものも取りあえず、全部で30キロの計測器を抱えてすぐに飛んでいきました。そして、サンプルをお客様の目の前で計測しデータを示して納得していただきました。

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その行動力はすごいですね。30キロの計測器って結構な重さですよね。

井坂

空港で預入荷物にしようとしたらしっかり重量オーバーになりました。そこで何とか規定重量以内に収めるため、オシロスコープを手荷物に振り分けるなど、空港内で荷物を広げて機材を仕分けている姿はかなり怪しい人に見えたかもしれません(笑)。

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井坂さんのバイタリティーを表すエピソードですね(笑)。先ほど拝見した計測の場では、製品単体ではなく、実装に近い形でドアやシートに組み込んだ状態で動きを見ていらっしゃいました。やはりそうした状態で可視化できる、測れるというのは重要なのでしょうね。

井坂

そうですね。最終的にはより実装に近い状態で性能を確認するということは重要ですし、より細かな改善へとつながります。たとえばギアの設計などにおいては動きをハイスピードカメラで解析することによって、肉眼では判別できない非常に微細な形状改善を行っています。

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現状、解析を行う上でもっとこうできればとか、これを見ることができればという要望はありますか。

井坂

実装した細部にもファイバースコープを入れて見ることができますので、現状はほぼ満足しています。ただ理想としてはそうした手間もなく、非破壊で中を可視化できればさらに良いですよね。X線計測やデータをCG処理して可視化するものはあるのでしょうが、そうしたものがもっとお安く、手頃に使えれば、と申し上げておきましょうか(笑)。