レンズは生き物、だから一瞬たりとも気が抜けない|匠の技01

「レンズは生き物、だから一瞬たりとも気が抜けない」

レンズ製造は元になる材料(光学ガラス)の選定から始まり、<切り出し><粗ズリ><砂掛け><研磨>と進み、レンズ外周部を削って光軸を整える<芯出し>を経て、反射防止の表面コーティング<蒸着>を施して製品となる。

 

一般的にこれら各工程それぞれが専門領域であり、大手光学機器メーカーなどでは外部委託を含めて作業の細分化が進んでいる。だがナックの場合、レンズ製造技術者は、ほぼそのすべてを一貫して熟知し、製造工程全般をカバーする。

素材、研磨剤、磨きの角度やスピード、様々な要件が異なるレンズ製造は、機械任せにできず、職人の経験による細かな調整が必要。一瞬たりとも気が抜けない。

 

「レンズ製造に関する総合的な“経験知”を持っていることが自分たちの特徴であり強み」

 

そう話すのは鈴木とともに製造部部品工作グループでレンズ製造に関わる谷田光だ。

 

谷田は2005年入社。当初は部品工作グループの機械加工に従事し、2008年から現在のレンズ加工に異動する。谷田が何より面食らったのは、前述した<レンズ製造においては経験や勘がモノを言う>ことだった。

 

「機械製造だったら設定値を入力すれば、ほぼ正確にマシンが加工してくれてモノが出来上がります。けれどレンズはその素材、求められる機能によって、たとえば研磨剤、磨く角度、磨きの速度など細かな調整が必要です。基本はもちろんありますが、極論すれば個々のレンズによってそれらがすべて異なる。まさに生き物、だから一瞬たりとも気が抜けません」

 

一般的なカメラで使用されるレンズとは異なり、精密計測に用いられるレンズは素材そのもの自体が特殊。たとえばエンジン内部の燃焼効率を計測するレンズでは耐熱性の高いサファイアが用いられるが、このサファイアは他の素材に比べ堅く、強めの研磨が必要になる。ただしその強さは微妙なバランスが肝で「強すぎても弱すぎてもダメ」だ。さらに撮影対象の温度が高くなればそれに伴い色温度も上昇し、熱源(炎)が青白くなって細部が見にくくなる。その対応策として透過波長領域が広い蛍石という単結晶素材を用いるが、これはサファイアとは逆にティッシュで拭いた程度で傷ついたり、急激な温度変化にきわめて弱い。

 

「温かい蛍石を直接冷えた手で触っただけで、簡単に割れてしまいます」(谷田)。

ナック製品の中にはそんな蛍石を8割以上使用する物も。通常の写真用レンズでは使用しても1割~2割程度だというから、いかに特殊であるか、言い換えるならどれだけ高いレベルの加工技術を有しているかが推し量れる。

 

また、このレベルの背景にあるもの、それこそが谷田の言う<ナックの強み=総合力>だ。レンズの研磨、蒸着といった単独の加工領域だけではなく、技術者一人ひとりがレンズ加工全般を俯瞰できる力を持っている。それが素材の弱点や課題を克服するための工夫や改善へとつながり、製品に反映されていくからだ。

求められる機能によって、様々な素材の中からベストな物を選択する。素材によって加工の方法は様々だ。