設計が要求してくる厳しい精度には、すべて意味がある|匠の技01

「設計が要求してくる厳しい精度には、すべて意味がある」

鈴木、谷田の話を聞いていると、「モノづくりへのこだわり」という言葉が浮かんでくる。この表現、有り体ではあるが実はさらに深く探って行くと、けして<つくり手側の満足>だけではないことが分かる。

 

たとえば冒頭で紹介したEMR-9。直径3ミリほどの極小レンズで考えると、その小ささは技術力を誇るためにあるのではない。ウェアラブルカメラとして、使用者の負担を限りなく軽減するため小型・軽量化が必要。だからレンズにもそれを求めるのだ。実際、1965年発表の初代機EMR-1は16ミリの小型カメラを頭に載せて計測するスタイルだった。それが40年を経て、今の軽量なサングラスの形(両眼モデル75g)に進化。それはひとえにユーザー視点に立ち、被験者がストレスを感じない計測を実現するためである。

EMR-9のレンズ部品。一番小さい物は直径3ミリという極小サイズで、加工には高い技術が要求される。

「より良いもの、これまでより質の高いもの、という設計のコンセプトが分かるから、そこに関わるレンズ担当として、要求される厳しい精度を乗り越えてやろうって思いますよね。設計スタッフの想いに応えたいっていうのかな。『できません』とは言いたくないし、言ったこともないです」

 

鈴木はこんな風に自身のプライドを語る。そして同じように谷田は耐衝撃用のレンズを例に、鈴木の言葉を引き取って話をつなぐ。

 

「通常、レンズは鏡筒に収める際に真鍮などで押さえ込み、その段階で光軸がきちんと出るようにします。ところが一部の耐衝撃用レンズは、実際にユーザーのみなさんの元で使用される際にかかる衝撃を受けても光軸がずれないよう、レンズの削り、加工段階で中心を正確に整え、そのまますっぽり耐衝撃性の強い鏡筒に収めます。これはレンズ加工側から見るとかなり大変な作業。でもそれこそが製品の重要な鍵を握る部分ですから責任とやりがいを感じますよね」

 

事実、これまで耐衝撃レンズが規定内の衝撃によって壊れた、という例は報告されていない。

進化を遂げて来たアイマークレコーダーEMR-9には、3つの小型カメラに合計12枚の小型レンズが使用されている。