ディレクターとして大切な<伝える力>|ユーザーズボイス07

人間を描きたい
人間と向き合い続けたい

株式会社TBSテレビ
制作局 ドラマ制作部 ディレクター

土井 裕泰 

ディレクターとして
大切な<伝える力>

──

入社後は最初からドラマ制作を志望されていたのですか?

土井

当時は技術、一般職、アナウンサーという3つの職域に分かれての採用で、僕は一般職での採用。一応希望は出しますけれど、基本的にどこに配属されるかは分かりません。僕の場合は制作を志望して、最初に配属されたのは美術部でした。最初の一年間は美術の進行見習いとして制作の現場に関わって、2年目からはドラマ班に異動し、その後はずーっとドラマ一筋です。実はこれけっこうめずらしくて、同期などを見てもバラエティやったり報道に行ったりと、いくつかの場所を異動してキャリアを積んでいくものなのですが、僕の場合はどういうわけか目の前の仕事をこなしていたら、気づいたら同じ場所に28年もいる。

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土井さんは学生時代にお芝居の経験があります。やはりテレビのディレクターになる上で、そうした素養、経験は必要なんでしょうか。

土井

「映画や演劇の経験や勉強をしてこなければこの仕事ができないか」といわれたら、「全然そんなことはありません」と答えます。台本はどうやってつくっていくのか、カット割り、編集っていうのはどういうことなのか、ということは入ってから経験すればいくらでも覚えられる。むしろ大切なのは俳優さん、技術や美術のスタッフなど、人間同士がひとつのものをつくる上で「何をどうしたい」かコミュニケーションする。そう、<伝える力>っていうのが重要なんです。
もちろん人間同士だから時に意見や考え方が合わないこともある。けれどそこから逃げてしまったら、絶対に良い作品はできない。おそらくどんな仕事でも同じだと思うのですが、人と人との関係性で仕事というのは成り立っています。ドラマでいえば、出演者、演出、技術、美術、広告など数多くのスタッフが関わって作品が生まれます。出演者はこっちに行きたい、一方で監督が見ている方向は別だとしたら、目指している方向が違うから必ず問題が起きます。その意味でディレクターっていうのは、自分の見ている方向をきちんと相手に<伝える>こと。その力が何より大切なんだと思います。 

──

それは何か実際の経験から学んだことなんでしょうか。

土井

僕がまだディレクターになって間もない頃、ある作品で役者の方と描くべき方向性をめぐって意見がぶつかったことがありました。当時はメールとかない時代。一日の撮影が終わって、深夜から明け方まで延々と話し合いをして、そこで結論が導けなかったから、次の撮影までに考えていることを文章にまとめてファックスで送りあうってこともしました。もちろん忙しいですから「面倒臭い」と思うもこともありました。でもそうやって互いが納得するまで話し合う。意見をぶつけ合って、ちゃんと理解しあった上で次に進むことがどれだけ大切か。ディレクターっていうのは、いろんなスタッフの気持ちをきちんと受け取って、それを形にするのが仕事だということ。生半可な気持ち、姿勢じゃできないんだっていう、そんな覚悟みたいなものが、この時にできたような気がしているんです。

──

たとえば土井さんがドラマ制作の仕事をしていく上で、影響を受けたキーパーソンみたいな人はいらっしゃいますか?

土井

誰か一人というより、いろんな人から、いろんなことを学びました。特に脚本家さんからは多くのことを。僕がADを卒業してディレクターとして演出を手がけるようになったのが93年頃。この頃のテレビドラマは作家の時代ともいわれていて、名だたる脚本家の方々によるオリジナル作品が次々と発表されていました。北川悦吏子さん、野島伸司さん、野沢尚さん、岡田惠和さん、遊川和彦さん、大石静さん‥‥。若い頃にこうした方々と仕事ができた。そこで学んだことはとても大きかったなと思います。

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錚々たるメンバーですね。

土井

もちろん皆さん個性が異なるし、作風も違います。その一方で皆さん基本的に人間に対する見方がすごく多面的で、画一的に人を見ていないし、決めつけない。いろんな面があるから人間で、良いところ悪いところ含めて人間だっていう、人間への愛情がものすごく深い。当然、自分が書いた脚本に登場する人、主役はもちろん端役一人ひとりに対しても同じように思い入れがあり、愛している。そんな彼らと一緒に仕事をさせていただいて、「やっぱりドラマっていうのは、普通に生きている人間の日常がベースにあって、そこから大きなテーマを描いていくのが基本。あくまでも人間の生活ってものが土台にあるんだな」ってことを学ぶことができた。それは今もドラマをつくる上で、僕が基本としている大切な部分ですね。

──

そんな“人”を大切にするという姿勢からでしょうか、土井さんに対する役者さんの信頼ってものすごく厚いですよね。「土井さん演出なら出たい」「土井さんの演出なら信頼できる」というように。たとえば、作品でご一緒されていた新垣結衣さんは、インタビューなどで監督の名前を出してはっきりとお答えになっています。

土井

自分では分からないですけれど、その時々の仕事で、ちゃんと相手の人、俳優さんと向き合うっていうことなのかな。プライベートで仲良くなるとかいうことではなく、仕事の場でちゃんと戦う、向き合うってこと。それではじめてお互いが納得する結果が生まれる瞬間というのがあって、それを経験すると互いの信頼関係はさらに高まる。すべては現場で起きているんですね。『踊る大捜査線』じゃないですけど(笑)。

──

顔と顔をつきあわせて向き合える現場にこそ、そうした関係を築けるきっかけがあるわけですね。土井さんのお話は、おそらくドラマだけでなく、一般の仕事にも通じる部分があるような気がします。人との関係性にしろ、困難や問題に直面した時こそそこから逃げるな、という。

土井

たとえば僕らの世界でいうと視聴率っていうひとつの指標があって、どうやってもそこから逃げるわけにはいきません。うまくいっている時もあれば、思ったような数字が取れない時もある。むしろそうした時こそつくり手の姿勢が問われると思っているんです。数字を上げるためにデータを見ながらCMに入るタイミングだとか考えるなど、テクニカルな部分でできることはやっていく。ただその一方で、「なぜこのドラマをつくろうと思ったのか」「伝えたいメッセージは何か」っていう部分は絶対にブレちゃいけない、ブレさせてはいけない、と思っているんです。一緒につくってくれるスタッフ、演じてくれている俳優陣。その人たちと共有している、自分たちが面白いと思っている部分、伝えたいこと、それは最低限守る。それではじめて、終わった後「またやりましょう」って次につながるように思うんですね。