製品のもつ可能性|匠の技04

「製品のもつ可能性」

水野らの仕事はいわゆる1点ものの開発が基本だが、その開発成果が研究分野や産業界からの高い評価を得て、標準製品としてラインナップされるものもある。

 

そのひとつがfMRI(function Magnetic Resonance Imaging)での脳機能計測の際に視覚計測を同時に行う<MRI視線計測装置、刺激発生装置>だ。

 

これは当時の通商産業省による次世代fMRI研究プロジェクトに参加し、水野らが開発に従事したもの。当初は磁力の影響を受けない樹脂製筐体内に収めた光学系をMRI内部に配置し、眼の至近で計測を行う仕組みだった。しかしこの方式では光学機器がMRIの計測精度に影響を与え、画像変化を起こしてしまう。そこで水野らは光学系の大半をMRI外部に配置し、超望遠レンズ、リレーレンズ、全反射ミラーを組み合わせるという仕組みを考案。これによってMRI内の磁界を乱さずに視覚計測ができる環境を実現させた。

 

「レンズが非常に大きいのが厄介ですが、さほど特別な技術というわけではありません。測定に使う光も赤外光で波長幅も狭いので補正も楽ですから」と水野はあくまで「そんなに難しいことではない」と言う。だがこの測定技術が最先端の脳科学研究に少なからず寄与していることは間違いないだろう。

ボアスコープを使用した撮影システムの例

 

またエコカーなど昨今の省エネ、環境対策などに貢献している「特注製品」に<筒内可視化用 ボアスコープ>がある。これはエンジン燃焼室内の噴霧や火炎の状況を見るための製品で、当初は産業総合技術研究所からの依頼に基づいて開発されたものだ。

 

ガソリンエンジンの火炎は2000度〜3000度。エンジン自体は冷却機構により火炎温度がすべて伝わるわけではないが、それでも数百度にはなる。当然エンジン内部に差し込むボアスコープには耐熱性能が求められる。従来品の多くはスコープを二重ジャケットにしてエアを流し込む空冷構造。だがこの設計では局所的に冷やすこと自体が燃焼に影響するため、火炎の正確な振る舞いを阻害する恐れがあり正確に可視化できない、という問題があった。

「空冷装置などを使わず耐熱性能を確保する」。この命題に対し水野は火炎に接触する先端部に高温高圧に耐え得る材料を使用。もっとも火炎に近く、熱の影響を受けやすい先端部のシールドに単結晶サファイアを用い、先端部を金属ガスケットによって封じるという設計を施す。この設計によって高温域で正確な燃焼状態を可視化することに成功したのだ。

 

ただこれにしても水野は「特許というほど大袈裟なものじゃない」とそっけない。しかし「特注品」の中でも年に確実に数件のオーダーが入るという事実をみても「<筒内可視化用 ボアスコープ>がいかに研究、産業分野で高いニーズを誇っているかをうかがい知ることができるのでは」と話を振ると「エンジンひとつとっても、ガソリン、ディーゼル、水素燃焼などさまざま。また可視化したい部分によってその都度設計を変えています。だから一口にボアスコープと言っても同じ物はないし、今でも少しずつ進化しているんですけどね」と少しだけ誇らしげに話してくれた。

ボアスコープを使ったガソリンエンジン燃焼観察はこちらから

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