モーションキャプチャの黎明期を走る|ユーザーズボイス05

モーションキャプチャの先駆者は
デジタルの未来に何を見るのか

CGアニメーター
株式会社モズー 代表取締役

竹原真治 

モーションキャプチャ・ディレクター
株式会社モズー 取締役

棟方さくら 

インタビュアー: ナックイメージテクノロジー 川瀬 健太
※ 記事内容は公開当時の情報です。 

| USER'S VOICE | USER'S VOICE 05 株式会社モズー

プロフィール

竹原真治(CGアニメーター 株式会社モズー 代表取締役社長)建築・インテリアデザインの世界からCGヘ転向。ソニーコンピュータエンタテイメント、サクノスでのゲーム制作を経て、ディースリーディ取締役兼アニメーターに就任、その後モーション部門のエキスパートとしてさまざまなプロジェクトに参画する。2004年、モーションキャプチャスタジオを持つCGアニメーション専門会社、株式会社モズーを大井埠頭の倉庫街に設立。2012年にスタジオとオフィスを南青山に移転。

棟方さくら(モーションキャプチャ・ディレクター 株式会社モズー 取締役)宇宙工学の世界からプログラマを経てCGに転向。国内有数のモーションキャプチャスタジオにて要職を歴任し、数々のプロジェクトの撮影現場を指揮してきた。常にモーションキャプチャの第一線に立ち続ける、国内最強のモーションキャプチャ・ディレクター。2004年、株式会社モズー設立時からの参加メンバー。

今回のUser’s VoiceはCGアニメーターの竹原真治さん、モーションキャプチャ・ディレクターの棟方さくらさんに登場いただきます。モーションキャプチャ・スタジオを有する株式会社モズーを共同経営されるお二人は、これまで数多くの映像作品にその名を刻んできました。映画、音楽、ゲームなど国内エンタテインメント産業の先駆者であるお二人は、デジタル映像の未来にどんな夢を描いているのでしょうか。

モーションキャプチャの
黎明期を走る

──

今回はCGアニメーターの竹原真治さん、モーションキャプチャ・ディレクターの棟方さくらさんに登場いただきます。お二人は日本におけるモーションキャプチャの黎明期から関わり今も最前線を走る、まさにデジタル映像業界のトップランナー。おそらく読者の方も一度は観たことのある、さまざまな映像作品に関わっていらっしゃいます。今日はこれまでの経験と未来への展望をお聞きしたいと思います。竹原さんとは古くからお付き合いさせていただいていますが、こうしてじっくりお話を伺うのは初めてかもしれません。お二人がどのようにしてこのモーションキャプチャの世界に飛び込んだのか、まずは棟方さんからお願いできますか。

棟方

私は父が農林水産省の研究職だったため、小学校の後半くらいから筑波に住んでいました。そうした流れで地元の筑波大学に進学しました。

──

大学での専攻は?

棟方

第一学群自然類物理学科というところです。良く分からないですよね(笑)。要は理学系の物理学科で素粒子物理学が専門です。ビッグバンや宇宙の成り立ちなど「物質とは」「宇宙とは」「生命とは」を追い求めていく学問です。

──

でも棟方さんはまったく違った道に進まれた‥‥。

棟方

私は研究の過程で出会ったコンピュータに魅かれ、なかでもコンピュータグラフィックス(CG)に強く興味を抱きました。ただCGに興味を抱いたのが研究の延長線上だったので、「どこに就職すればCGに関われるんだろう?」と、まったく右も左も分からない状態でした。今だったらゲーム業界なのかな、って思いつきますが、当時私自身がゲームにまったく疎かったので、そうした業界は想像すらしなかった。自分としては大学を卒業した後、CG関係の専門学校に行って一から勉強しようかなとも思っていたのですが、親から「とりあえず就職しなさい」って言われ(笑)、卒業間近でドタバタと就職を決めた感じです。

──

具体的にはどのような会社に進まれたのですか。

棟方

企業の情報システムを開発・運用している会社です。鉄鋼メーカーの工場に派遣され、そこでひたすらプログラミングやシステムの保守管理をやりました。結局、その会社には10ヶ月程度しかいなかったんですが、その後、知り合いの方から大学での助手の仕事を紹介してもらったんです。都立大学、今の首都大学東京ですね。そこの機械工学科でCADを教えてくれないかって。そこへの転職を決めたのは「CADだったらCGに近いかな、自分自身も勉強になるかな」と思ったからです。

──

そこで出会いがあった?

棟方

ええ。セミナーの講師の先生に「CG関係の仕事に就くにはどうしたらいいんでしょう」と相談したら、当時ちょうど起ち上がったばかりのビジュアルサイエンス研究所(VSL)*1を紹介してもらい、「CGやりたいんです、入れてください!」とお願いして、頼み込んで入れてもらった。これがキャリアのスタートと言えるでしょうか。

──

まさに業界の黎明期ですね。棟方さんの経歴をここまでお聞きしていると、紆余曲折はあれど、ひたすらデジタル映像の世界に突き進んでいるという印象を受けます。

棟方

とにかくCGの仕事がやりたかったので、最初は少し回り道しましたけれど、後はデジタル映像の世界につながりそうな人を見つけたら逃さずアタックする。ひとりクリアしたら、次に出てくる人に再びアタックって感じでした。

──

VSLに入って念願のデジタル映像関係のキャリアがスタートするわけですが、モーションキャプチャを専門とされたのはどんな経緯があったのですか。

棟方

ちょうどスタジオでモーションキャプチャを取り入れる時期で、日本では専門のエンジニアとかオペレーターもそうはいない時で、「じゃあ棟方さんやってみる?」って感じ。なにせ組織も小さかったので、お客様への対応や役者さんのケアとか、マネジメントからオペレーションまでひとり何役もこなさなくてはいけなくて、果たして自分はエンジニアなのかオペレーターなのか、はたまたスタジオスタッフなのか、っていう自分の専門職域ってことを意識している環境ではなかった。今振り返ると、そうしてスタジオに関するあらゆる仕事に関わったことは経験知として大きかったなと思いますけどね。

──

当時はどのような映像ジャンルが多かったのでしょう。

棟方

圧倒的にゲームですね。映画やテレビなどもありましたけれど、もうほとんどがゲーム。まさに黎明期ですから仕事の進め方から何から自分たちで作り上げていく感じでした。まずモーションキャプチャのハードウェアに関しても、当時は海外から直接買っているので、国内ではまともなサポート体制がない。ちょっとカメラの調子が悪くても、英語もしゃべれないし、何よりどこがどう悪いっていう説明もうまくできない。夏の湿気の多い時期はうまく動くけど、空気が乾燥する季節になると不具合がでるなんてこともあって、英語力のある人に問い合わせてもらったら「そうなんです、乾燥すると不具合がでます。雨の日は大丈夫です」なんて答えが平気で返ってきたりして(笑)。

──

当然、今のようにオペレーティング・システム(OS)もウインドウズなどではないですよね。

棟方

UNIXでしたね。それでいて今のように長い尺を一気に撮れませんから、ひとつの動きを撮影するにも何分割もしなくてはいけないという時代でした。VSLには結局6年ほど在籍、この期間にモーションキャプチャのイロハをまさに実践で学んでいきました。

──

そこでまた転職される?

棟方

そうですね。業界の方ならご存知かと思うんですが、ちょうどイブキスタジオ*2がオープンする時で、そのオープニングスタッフとして参加しました。VSLでの経験で自分なりにモーションキャプチャについて分かりはじめてきた頃で、環境を変えて新しいものにチャレンジしたいと思ったんです。業界ではこうした転職って比較的当たり前で、逆に一箇所にずっといることはめずらしいかもしれません。ある程度経験を積んだら卒業して次の場所に行く。そうやって組織が新陳代謝していったんでしょうね。

──

シリコンバレーなんかに代表される、新しい成長産業ってそういう形ですよね。個々の会社というより業界全体がひとつのコミュニティになって、テクノロジーやノウハウを高め合っていく。

棟方

そうですね。分からないことを会社の枠を超えて教えてもらったり、逆にこちらからも提供したりと、交流もすごく多かった。関わる人全体で業界をつくっていこうという感じだったのかもしれません。竹原さんと知り合ったのもちょうどイブキにいた時でした。

──

そして現在のモズー設立につながるわけですが、ここで竹原さんにバトンタッチしましょうか。

*1 現株式会社ダイナモピクチャーズ。アニメ、ゲーム、映画、CMなどのCG映像制作を手掛ける映像プロダクション。

*2 現株式会社アニマロイド。モーションキャプチャ収録やCG映像制作を行うCGプロダクション。