日本で初めて馬のキャプチャーにも挑戦|ユーザーズボイス05

モーションキャプチャの先駆者は
デジタルの未来に何を見るのか

株式会社モズー

竹原真治・棟方さくら 

日本で初めて
馬のキャプチャーにも挑戦

──

スタジオを起ち上げ、これまでさまざまなことにチャレンジしてきたと思いますが、これまでに手掛けた作品で代表的なものを紹介してもらえますか?

竹原

いろいろありますが、ひとつは棟方さんが統括した日本初の馬のキャプチャーかな。

棟方

2009年に公開された紀里谷和明監督の『GOEMON』という映画での話です。

──

江口洋介さんが主演された作品ですね。

棟方

あの映画の中で馬が疾走するシーンがあるんですが、実写では物理的にカメラアングルが取れない。また合成処理するにしても、馬が走る距離分のクロマキー用のグリーンバックが必要ということからそれも現実的ではない、ということでモーションキャプチャによるCG作成が検討されました。馬のキャプチャーはハリウッドなどでは実例がありましたが、日本映画では初めて。これまでにも動物をキャプチャーしたいというという依頼はいくつかありましたが、実現したのはこれが初めてでした。

竹原

かなりの紆余曲折があって実現したんだよね。

棟方

制作サイドとしては馬のキャプチャーを撮りたい、けれど予算もかさむから「既存のCGを使おうか」と考えてたみたいです。でも、私としてはぜひ馬を撮ってみたかった。とにかく予算がタイトだったけれど、紆余曲折を経て最後は何とか実現しました。

──

失礼な質問かもしれませんが、やはり実際にキャプチャーするのと、想像力を膨らませてCGを描くのとではリアルさが異なるのですか?

棟方

人間の動きでもそうなんですけれど、キャプチャーすることではじめて分かるリアルさがあるんです。たとえばこの馬の撮影では、馬が普通に佇んでいる時に耳がピクピクと動いていることに気づきました。馬は周りの音を常に注意深く聞いて、今ここが安全なのかどうかなど判断をしているんですね。なのでこの耳の動きもキャプチャーすることで、ただ立っている馬のシーンでも、すごくナチュラルな馬の姿を再現できるんですよ。それとキャプチャーだからこそよりリアルを追求できるっていう面もあるんです。以前、ゲームのオープニング画面で槍の格闘シーンがあって、人を刺す場面での肉感が欲しかった。そこで豚肉の半身を用意して何人かのスタッフで刺しまくってもらい、肉のひずむ感じを再現しました。たしか音も使ったんじゃないかな。これなどは実写ではできない、キャプチャーだからできる“リアル”ですよね。

──

かなりチャレンジングな案件だったんですね。日本初ですから当然、ノウハウがない、先行事例がないという苦労が相当あったのではないですか。

棟方

撮影したデータを後のアニメーション、CGとして有効なものにするためには、解剖学的な骨格の構造を理解していることが大事なんです。可動する箇所を把握できなければ撮影のための正しいマーカー位置など、どこをどのように測定すれば良いか決められませんから。ところが思ったような馬の解剖図がなかなかみつからない。探していくとどうやら世界中にキャプチャーのための参考になる馬の骨格解剖図はひとつしかないことが分かって、何とかそれを入手して参考にしながら準備を進めました。撮影場所は東海のスタジオではなく、山梨県の小淵沢の馬場でしたから事前のテスト撮影もできません。なので東海のスタジオで犬をキャプチャーしてみたりしましたね。あまり役には立たなかったけれど(笑)。難しかったのが、撮影のための走路が30メートルほどしかなく、直進するだけではトップスピードに達しないため、疾走感や躍動感のある動作を撮れないこと。そこで端の方で何度も周回してもらってスピードを上げ、ここっていうタイミングで走路を走ってもらいました。また馬の体力がもたないのでテイクを何度も繰り返せない。与えられた撮影時間は最大2時間ほど。その間に疾走シーン、騎馬上でのアクションシーンなど42カットを撮りきりました。

竹原

大変な撮影というと、『キャプテンハーロック』も大がかりだった。

──

CGアニメ映画のですか?

棟方

そうです。2013年に公開された。あの作品では格闘シーンだけでなく、顔の表情も同時に撮影してデジタルデータ化するフェイシャルキャプチャーを行ないました。フェイシャルの撮影はけっこう苦労があって、役者さんにはカメラとライトを固定したヘルメットを被ってもらうのですが、頭に負担がかかり眩しくて演技もしにくい。また、ボディの動きは撮れてるのに、それとシンクロする顔の部分がうまく撮れてなくてNGになってしまったりと、撮影は大変でしたね。

竹原

ハーロックは荒牧伸志監督の作品だけど、同じ荒牧作品で『スターシップ・トゥルーパーズ・インベイション』、『アップルシードアルファ』などでは、ボディはボディで撮影して、その動きを見ながらセリフ部分など顔の表情をフェイシャルキャプチャーで別撮りしてシンクロさせるってこともやっている。それと指の動きをキャプチャーするのって意外と難しくて、なかなかうまくいかないことが多かったんですが、これもセンサーが指の曲がりを検知してデータ化するデバイスを数年前に自社開発するなど、新しいことには色々トライしてきましたね。

──

最近ではどんなことを手掛けていますか?

竹原

ちょっとエンターテインメントからは離れますが、企業からの依頼で再現アニメーションを制作してます。例えば、建設現場で実際に発生した事故の様子をCGアニメーションで忠実に再現し、現場教育用のビデオを制作したり。こうした現場で起きる事故の多くは、日常作業の中のちょっとした気の緩みや手順の間違いなど、ヒューマンエラーで発生することが多い。そうした原因となる細かいニュアンスを再現して、起こった出来事を映像化して関係者に伝える、という需要が結構あるんです。これにはやはり再現性の高いモーションキャプチャを利用すると説得力が違うんです。

──

なるほど、確かにエンタメからは離れますがモーションキャプチャの特性を生かした画作りができますね。

竹原

本来のエンタメ系では、アニメーター仲間と一緒にゲームアニメーションに特化した会社(Buhistar Inc.)も新たに立ち上げました。特長としては、プロジェクトの初期段階からスキルレベルの高いアニメーターを現場に常駐させ、他のセクションとやりとりをしながら作品作りに深く関わっていくことを目指しています。ゲームのアニメーションって、作った動きがそのままゲーム性に関わってくるんです。それを一般的な請負い仕事として、制作現場の外で作っていくのは結構難しい。だからどんどん中に入って、もっと意味のある仕事がしたい。そういうポリシーのもと、今優秀なスタッフを集めています。