原点は音楽体験、クリエイターとしての情熱|ユーザーズボイス05

モーションキャプチャの先駆者は
デジタルの未来に何を見るのか

株式会社モズー

竹原真治・棟方さくら 

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そうやって作品をつくって転職先を探すと。

竹原

そう。相手にされないことも多かったんですが、その中で水道橋にある小さなマルチメディアタイトルをつくっている会社に縁があって入ることができました。なぜか僕の作品を見てプロデューサーの人が「お前はセンスがある」って褒めてくれた(笑)。在籍期間は1年くらいのわずかな時間だったけれど、そこでの時間がすごく濃密だった。会社の仕事はもちろん一所懸命やったけれど、その環境を使ってありとあらゆることをやらせてもらえたんです。たしか94年頃、横浜でシリコングラフィックス(SGI)の展示会があって、ものすごい衝撃を受けた。「こんなことできるのかよ!」って。で、展示会から帰ってきてすぐに社長に「これからはSGIですよ」「入れなきゃ取り残されますよ」って直談判。実際は自分がなんとしても使いたかっただけなんですが。そうしたら何と!会社が買ってくれたんです。確か総額2000万くらいしたんじゃないかな。今思い返してもよく投資したなと思いますよ。

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そんな投資してもらって逆にプレッシャーじゃないですか?

竹原

当時はいかに自分がそこでそうした最新技術を吸収できるか?ということしか考えてなかったんです。ただ、使いこなすまでには一苦労。言語はUNIXでしたし、周りに教えてくれる人は誰もいない。分厚いマニュアルをセクションごとに全部バラして、電車の中や移動時間など暇さえあれば読み漁っていました。家にもほとんど帰らず、夜遅くまでSGIをオペレートして会社近くのカプセルホテルで寝て、誰よりも朝早くに会社に戻ってマシンの前に座るっていう生活を何ヶ月も続けました。

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そうやって自分のスキルにしていったわけですね。

竹原

サッカーのマルチメディアCD-ROMを制作する仕事があって、そこに5分程度のCGムービーが必要だったんです。それを一人で全部やったんですが納品用のムービー以外にプレゼン用の個人の作品をつくったりして。

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社員としてはともかく(笑)、クリエイターとしての情熱はすごかったと。

竹原

美しく表現するとそうですね(笑)。そうしてつくった作品を持ってゲーム会社に再アタック。当時、プレイステーションを出したばかりのソニー・コンピュータ・エンタテインメント(SCE)に採用されました。

──

それが年齢で言うと27歳くらいでしょうか?

竹原

そうですね27歳の頃かな。他の大手ゲーム会社は僕みたいに画の基礎をきちんとやってない人間が入るのは難しかったんですが、SCEはまだできたての若い組織で、色々な業界から多彩な人材を集めてゲーム事業を伸ばそうとしていた時だったんです。だから自分もいけるのではないかと作品持って売り込みに行ってみたわけです。ただ、最初からダメ元で行ったので、最初の面接が終わってすぐに「やることはやった」って満足して、その後、3週間くらい奥さんと一緒にポルトガル旅行に出かけました。「どうせ受かるわけないし」と思ってましたからね。それが、帰国して留守電聞いたら「役員面接をしたいから〇〇日に来てくれ」って入っていて、もうとうにその日は過ぎていた。あわてて連絡して事情を説明し、何とか対応してもらって無事入れたというわけです(笑)。

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破天荒すぎますね(笑)でもそういうことも許容できる勢いが、あの時期のSCEの急速な伸びの背景にあるのかもしれませんね。プレイステーションの登場は時代の大きなトピックだった。さてここで念願のゲーム業界に入ったわけですが、このSCEでモーションキャプチャに関わることになったのですか?

竹原

SCEに入って僕は野球ゲームの制作チームに入りました。まだその頃はそんなにたくさんのプロジェクトがあったわけじゃなくて、このチームに入ったのも「君は車が好きか?」「野球好きか?」って聞かれて「野球が好きです」って答えたから。ただこの時、野球という“人が動くモノ”を選択したのは運命の分かれ道だったと思っています。当時のSCEは僕を含め、本当にゲーム開発未経験者が多くて、何をどうすればゲームができるか本当に分からなかった。人物の動きのCG化にしても「どうやったらリアルさを追求できるんだ」と悩んでいたら、セガから移ってきたクリエイターの一人が「リアルな人間の動きを再現するならモーションキャプチャだよ」と教えてくれたんです、そうしたら彼の意見があっという間に稟議を通ってスタジオをつくるってことになった。

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勢いを感じるトピックですね。今ではそんな予算の使い方は考えられません。

竹原

それがモーションキャプチャとの最初の接点。SCEには結局3年くらいいてその後、スクウェア出身の人たちがつくったゲームメーカーに入社して、ハリウッドでのモーションキャプチャ撮影のスタッフに入ったり、3DCGのムービーをつくる会社からプロジェクトのメンバーに入って欲しいと言われて参加したり・・・。その後かな、スクウェアから声がかかってファイナルファンタジー10のイベントシーン*3制作担当として入って欲しいってことで参加したんです。

*3 ゲームの中でミッションをクリアしたり達成した時等の節目に表示される一連のアニメーションシーン