デジタル技術の進歩が見失ってはいけないもの|ユーザーズボイス05

モーションキャプチャの先駆者は
デジタルの未来に何を見るのか

株式会社モズー

竹原真治・棟方さくら 

デジタル技術の進歩が
見失ってはいけないもの

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映画、音楽、ゲーム。昨今、総じてエンタメ産業は娯楽の多様化などから厳しい環境にあると言われていますが、モーションキャプチャをめぐる環境はその後変化していますか?

竹原

ゲームが売れない、CDが売れないとなれば当然、作品にかける予算は減ってくる。ハイエンドな作品ニーズは少なくなってきているのは現状。一方で新しいジャンルとしては遊技機向けの画像作成などが出てきた。総じて言うと作家性の求められる仕事のボリュームは減ってきています。

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コスト優先ってことですね。

竹原

コストの話ばかり。今は。

棟方

一方で、こうしたキャプチャー設備を大企業だけでなく、2〜30人クラスの企業でも導入しはじめ、独自にモーションキャプチャシステムを運用しよう、内製化しようという動きも増えていますね。ただ入れてみたは良いけれど、使いこなせず、思ったほど稼働していない所も多いようですが。

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パソコンのスペックが大幅に上がっていること。さらにはキャプチャーするカメラなども精度が上がり、なおかつ使いやすいインターフェースになってきていることなどが大きいのでしょうね。

棟方

ただ、竹原さんが前に話したように、キャプチャーは撮ることだけが目的ではなく、そのあとのキャラクターデザインなどにスムーズに結びつける、全体のワークフローがすごく重要なんですね。つまり<ハードが進化した=誰もが使える>というほど簡単な図式ではないのです。もちろんMotion Builderなど周辺ソフトは昔に比べはるかに扱いやすくなっているのは事実ですけれど。

竹原

扱いやすくはなっているし、それによって多くの人が使うようになっているのは良いこと。これは間違いない。ただ一方でクリエイティブという側面から見ると、その質がどんどん落ちていることは気にかかりますね。

──

ナックでモーションキャプチャ機器を取り扱い始めて既に20年ほど経過しています。現在は主にMAC社のシステムを中心に提供していますが、実は当社の特徴として産業、研究分野向けが中心で、エンタテインメント分野への周知が弱い。当然、もっともっとエンタメ市場を攻めていかなくてはいけないと考えていますが、一方でただ単純にエンタメ市場へアプローチするのではなく、新しい“価値”を提供しなくてはいけないのでは?とも思っています。このあたりクリエイターのお立場からご意見をいただけるとありがたいのですが。

竹原

技術進化の方向性として、効率化、合理化というのがある。極端にいえばキャプチャーしたデータをソフトに入れてしまえば自動的にCGができてしまうというような。その方向性は否定しないし、おそらくそういう方向性も必ずあると思う。ただエンタテインメントというのは、そうした効率や合理性の先だけにあるのではないと思う。デジタル映像技術がエンタテインメントにおいて存在感を示してきたのは、技術の進歩によってつくり出されたアウトプットが人に驚きを与えてきたから。CGの登場もそうだし、最近では3Dプロジェクションマッピングなどもそう。「わ〜すごい!」という感動に人は心を動かす。じゃあこれからどんなモノを僕らは提供していかなくてはならないのか?という時に、僕は単純なハードウェアの技術進化だけでなく、制作に関わる人の組み合わせに何かヒントがあるような気がしています。これまでだったらナックは機材を提供する側、僕らはそれを使う側って分けられるけれど、その棲み分けを互いに踏み込んでいくことが必要じゃないかと思っています。

──

たしかにそうですね。たとえばナックにはモーションキャプチャだけでなく、ハイスピード撮影やアイトラッキングの技術などがある。それらは主に産業分野に提供しているわけですが、エンタメ分野のクリエイティブサイドから見たら、「何だ、こんなことできるのか」ってこともあるかもしれないですね。

竹原

そう。そうしたことを手探りでも良いから互いに探していかなければ、本当に「安くできました」「簡単にできました」だけになってしまう。

棟方

効率や合理性ばかりを追求していくと、見落とされがちなことがあるとも思いますね。モーションキャプチャによってアニメーションを作成する上で、良い作品にするには撮影時にいかに的確な画を押さえるかってすごく重要なんです。闘いのシーンであればアクターの方が迫力ある動きをしてくれなければ、本当の力強さは出せない。だからこそワークフローの入り口である撮影で完璧なものを撮らなくちゃいけない。撮影はもちろんだけれど、準備、アクターさんのケアなど、私としてはそうした部分を大切にして、気持ち良く最高の演技をしてもらって、それを撮りたいって思うんですよ。

──

ただ“デジタル処理のためのデータ”を集めているんじゃないってことですよね。

棟方

そう、人間を撮っているんです。私たちは。それと、先ほどのクオリティの低下の話ですが、撮影時にパーフェクトな仕事を目指さず、「まあ、撮れたね」「ここは後で何とかなるよね」って安易に作業を進めることも多いような気がしますね。デジタル映像の世界にいる自分が言うのもおかしいけれど、これはデジタルの弊害なのかな。

──

はからずもこのコーナーの一回目に登場いただいた映画キャメラマンの山本英夫さんが同じことをおっしゃっています。デジタルになって一番変わったのは技術云々ではなく、現場の空気感だと。どこか緩んでいると。

棟方

CGの世界に限った話ではなく、実写でも適当な画角で撮影して後は切りとれば良いって撮り方をすると、どうしても緩くなってしまうんですよ画が。

竹原

よく誤解されるんだけど、エンタメの世界ではモーションキャプチャによってリアルな動きを追い求めていると思われる。もちろんリアルさは追っているんだけど、それは100%正確な動作ではなくて、棟方さんが指摘したように、動きの迫力、動作にともなう空気感、ニュアンスみたいなものの表現こそが重要だと思う。そうするとカメラの解像度だけでなく、アクターの演技、そして撮る人の感性、職人技みたいなものがどうしても関係してくる。クオリティを左右するのは機械的な技術だけではないんです。

 ──

なるほど。どうしてもテクノロジーに目が行きがちですが、オペレートするのも演技するのも人間、ってことですね。技術は重要だけれど、そればかりを議論していると大切なものを見落としてしまうということ。

竹原

実際、モーションキャプチャの技術は進化して、色んなモノを撮れるようになったけれど、実は人の動きでも撮れているのはわずかしかない。まだまだ撮れていないものってたくさんありますからね。テクノロジーって最新のものはある意味未熟ですから。その未熟さを補完するのは人間しかいないし、そこを追求していくことが面白い仕事にも繋がっていくのだと思います。