自分たちが業界標準をつくってしまえば良い|ユーザーズボイス05

モーションキャプチャの先駆者は
デジタルの未来に何を見るのか

株式会社モズー

竹原真治・棟方さくら 

自分たちが業界標準を
つくってしまえば良い

──

それは3Dアニメーターということですか?

竹原

アニメーターとしてもそうですが、モーションキャプチャデータをCGキャラクターに流し込むまでのワークフローを考えて管理する立場でしたね。それまでは業界に確立された手法がまだなく、各社、各担当者が手探り状態でやっていました。そこでカイダラ社のFilmbox(現MotionBuilder*4)という新しい革新的なツールを導入し、生産効率とクオリティを両立させた方法を考えようと思いました。

──

仕事を進めながらやり方を考えていく。マネジメントスキルについて業界のスタンダードを作り上げたわけですね。

竹原

確立されたスタイルがあったわけじゃないですからね。ただそれはラッキーなことで、僕はゲーム業界からすれば新参者。そんな僕が普通に仕事をしていたらとてもかなわない。埋もれてしまうだけ。だから何かをオーダーされてそれに対応するという受け身ではなく、自分から一歩前に出て、自分たちで業界のスタンダードをつくってしまえばいいって思ったんです。モーションキャプチャはその点では格好のターゲットだったんです。撮影の手法からデータの取り扱い方、関連するソフトウェアのパラメータの設定方法とか、ありとあらゆる可能性を探って自分たちでつくっていった。Motion Builderなどの最新ソフトもいち早く使い倒したりして。そうやって標準となるワークフローを自分たちでつくっていくことが、結果として重宝されたし自分たちの存在価値を高めることになったのかな。

──

もちろん個別のオペレーション技術やノウハウを高めていったってこともあるのでしょうが、エンジニアとかオペレーターとしてではなく、竹原さんの名前が業界で広まっていったのは俯瞰して全体が見える人、分かる人間、って部分が大きかったわけですね。

竹原

前述した高校の時に同級生にバンド誘われた話。やりたい音楽にシンセが必要だけど当時はまだシンセやってる人って周りにはそうはいなかった。そんな時誰かが「そうだA組の竹原って鍵盤弾けたんじゃない?」って思い出すのと同じかも。

──

レベルが違うような(笑)。

竹原

いやいや、けっこう似てると思う。それくらいまだ黎明期。3Dのキャラクターアニメーションなんてちゃんとできる人いなかったですし、ましてやモーションキャプチャを積極的に利用しようなんて人も滅多にいない。最新技術とそれを使い倒すことに情熱があり、合理的、効率的に、そしてセンス良くやれる、という意味で重宝されたのかもしれませんね。

──

そして2004年に現在のモズーを設立するわけですね。

竹原

そうですね。それまで頑張って業界のスタンダードみたいなものをつくりあげていきましたが、それが評価され色々とやらせてもらう中で、自分たち自身のクリエイティブな欲求を実現したい、もっといろんなことを試してみたいという意欲が高まってくる。そうなると自分たちのホームグラウンドが欲しい。ゲーム会社の系列スタジオなどではなく、僕ら自身の独立した環境があれば色々と撮影の提案や技術の試行錯誤ができると考えました。

──

お二人はその時点で顔見知りだった?

竹原

そんなに大きな業界ではないし、棟方さんは優秀なエンジニア、テクニカルディレクターとして有名でしたから。たしか、棟方さんがイブキにいた頃に一緒に最初の仕事をしたのかな。

棟方

そうです。竹原さんの最初の印象は、ゲーム業界っていうより音楽の人って感じでしたね。今もそんな感じですけど(笑)。話しやすかったってことを覚えてますね。

竹原

「自分たちで何かやりたいよね」「つくりたいよね」という話を、その頃僕が所属していたCG会社ディースリーディの社長さんと毎日話していたら、風の噂で「棟方さんがスタジオ辞めたがってる」って話が聞こえてきまして(笑)。棟方さんが来てくれたら心強いから「じゃあ誘ってみよう」と。あともう一人、CGアーティストの由水さんにも声をかけ、その4人で貯金を出し合って会社を設立しました。

──

特定のメーカー、会社に属さない日本初の独立系モーションキャプチャスタジオの誕生ですね。

竹原

クリエイターが起ち上げ、新しいことにチャレンジしたいという意欲を機材関係の代理店なども応援してくれて、「やるなら日本で一番広いスタジオにしよう」ということになって、300坪の東海(東京都大田区)のスタジオを借りることになりました。最初は何もなくてエレベーターが開くとガラーンとした空間がただあるだけでしたね。

──

いきなり300坪というのが驚きですが、これまでの経歴を聞いていると「らしいかな」と思えてきますね。とは言ってもそれだけの初期投資にプレッシャーはなかったのですか。仕事は最初から順調でしたか?

竹原

それぞれが培ったネットワークもあったし、各自がそれぞれ仕事を持っていましたからね。

棟方

むしろ、カメラの組み立てなどが間に合わない、スタジオができていなくてまだテストもしていないのに撮影は来週、「早くセッティングしないと!」「キャプチャースーツは発注した?」と最初はバタバタでした。

竹原

まあ仕事の数という点では順調だったけれど、それだけ大規模なスタジオだからいきなりすごい固定費がかかって、「やばいやばい、売上げ足りないよ!」って、最初はだいぶ何と言うか、壮絶だった(笑)。

棟方

すごかったですね、本当に(笑)。

*4 アニメーションキャラクターを作成、編集、再生するための、リアルタイム3D キャラクターアニメーションソフトウェア