日本舞踊の研究|ユーザー事例

     
  • 日本舞踊は、江戸時代から約四百年にわたり受け継がれてきた日本の伝統的な身体文化の一つです。その身体遣いは、室町時代に成立した能楽に伝わる身体遣いから、江戸時代のさまざまな職業の人たちが日常的にしていた多彩な身体遣いに至るまで多岐にわたっています。その日本舞踊の身体遣いの中でも特に「体幹部」の使い方は、日本舞踊のパフォーマンス全体の基盤であり根幹であるとして非常に重視されてきました。体幹部とは、伝統的に言われてきた「胸・腹・腰・背中」といった部位を含む胴体部のことを指します。しかし、その重要な部分は、名人や天才のみがその中身を天賦の才で理解し、会得しているのが現状です。その具体的な動きは解明されないまま、非明示的に伝承されてきました。

    そこで、光学式モーションキャプチャーシステム「MAC3D System」を使って、踊り手の「体幹部」につけたマーカーのデータを取得し、定量的に「体幹部」における極めて細やかな時間・空間の使い方を明らかにすることを試みました。

    <参考文献>
    日本舞踊における「腰」の技法分析―モーションキャプチャを用いて―,
    じんもんこん2017論文集,2017年, 245‐252ページ
    宇津木 安来 東京藝術大学
    露木 雅彌 東京藝術大学
    高岡 英夫 運動科学総合研究所

  • 研究・計測の概要

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    今回の研究目的は、日本舞踊の「体幹部」で重要とされる「腰の使い方」に注目し、その動きを明らかにすることです。対象動作は、曲目『長唄 娘道成寺』の稽古の中で、”腰を動かすな”・”腰を安定させろ”という指導を受けた腰の使い方です。

  • 日本舞踊の研究|ユーザー事例
    対象動作のスティックピクチャー
    被験者は、指導している先生1名、指導を受けた生徒4名です。被験者はすべて、日本舞踊協会会員で日本舞踊の修行を10年以上積んでいる日本舞踊家です。先生の「腰」に貼ったマーカーの総移動量に対して、生徒のマーカーの総移動量はどのような違いがあるか、また総移動量を構成する動きにどのような違いがあるかを比較します。

  • 日本舞踊の研究|ユーザー事例
    左:「腰の周囲」マーカーの位置 右:「腰の中心」マーカーの位置

  • 「腰の中心」と「腰の周囲」のマーカー総移動量の絶対値の比較
    被験者 腰の周囲(mm) 腰の中心(mm)
    被験者A(准教授) 1,614 464
    被験者B(博士1年) 872 261
    被験者C(学部4年) 971 286
    被験者D(学部1年) 1,212 371
    被験者E(学部1年) 1,309 414


  • 「腰の中心」と「腰の周囲」のマーカー総移動量の相対値の比較
    被験者 腰の周囲(mm) 腰の中心(mm)
    被験者A(准教授) 1.90 0.55/td>
    被験者B(博士1年) 1.05 0.31
    被験者C(学部4年) 1.14 0.33
    被験者D(学部1年) 1.42 0.43
    被験者E(学部1年) 1.45 0.46

  • 日本舞踊の研究|ユーザー事例
    総移動量を構成する「腰の中心」「腰の周囲」マーカーのXYZ座標における動きの比較
  • 計測の結果

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    比較の結果、先生の「腰の動き」の総移動量は最も大きく、その数値を構成する動きは生徒と比べ、三次元六方向を十全に使った動きであることが明らかになりました。

    動的な安定
    通常、”腰を動かすな” ”腰を安定させろ”という二つの指導からは、「腰の動きを抑制する」「ゼロ化していく静的方向での安定状態になる」を想像して、そのような動きになります。しかし、先生の腰は「腰を動的に使うことで安定状態になる」というものであり、そのことで腰の動きは「全体的に整った動き」に変わっていきました。
    このことからMAC3D Systemを使うことで、目視ではわかりえない、時間的にも空間的にも、より微細なスケールで日本舞踊の動きを分析することが可能になることがわかりました。また、これによりこれまで非明示的であった技法の解明に繋がるだけでなく、伝統的になされてきたさまざまな教えの解明にも繋がることがわかりました。

    MAC3D Systemを使った日本舞踊の動作解析は、今後より精度の高い日本舞踊の伝承を実現するための一つの大きな手立てとなる可能性を示しています。

  • システム構成

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    ・使用カメラ Kestrel2200×8台 / Raptor-12HS×10台

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